2023年9月27日(水)

2023年9月26日(水)


『苦痛の活用』

ロビン・グレアムを取材したことがある。
彼は歴史上最年少で単独世界一周航海をした人物だ。

彼の話は『ダブ』のタイトルで書籍と映画になった。
航海に出たときは、16歳の冒険心に富んだ少年だった。

三年の航海の間、海上で激しい嵐に襲われ、波をかぶってマストが真っ二つに折れ、また竜巻で危うく一巻の終わりか、という目にもあった。

赤道付近の熱帯無風海域を漂っているとき、絶望のあまり自暴自棄になって、ボートに灯油をかけて火をつけた。
すぐに思い直して、火を消したが。

五年後、ロビンはロサンゼルス港に帰って来て、おびただしい数のボート、旗、新聞記者、クラクション、汽笛などに迎えられた。

帰還した喜びは、航海中に味わったどんな経験とも全く異なるものだった。
もし楽しい思いばかりして帰って来たなら、こうした歓喜に満たされることはなかっただろう。

世界一周航海の苦悩が、勝利の帰還という格別の喜びを得させてくれたのだ。
出発のときに16歳だったが、帰港したときには21歳になっていた。

自力でやり遂げたという自信に後押しされて、彼はモンタナ州のカリスペルに農地を買い、そこに自分の手で伐採した丸太で小屋を建てた。

出版社や映画会社などがいろいろと魅力的な条件を出して、彼を引っ張り出そうとしたが、そのすべてを丁重に断った。

快適な状態に制御された環境に暮らす私たち現代人は、苦痛のもたらす不幸を敵視しがちだ。
人生から苦痛を追い出してしまえば、幸せになるだろうと考える。
ところが、ロビンの経験が示しているように、人生はそのように簡単に区別できるものではない。

痛みは感覚という縫い目のない生地の一部であり、ときに喜びと充実感を味わうために必要な前奏曲なのだ。

幸せの鍵は、痛みの役割を理解するところにある。
あらゆる犠牲を払って苦痛を避けることよりも、痛みが私たちに歯向かうものではなく、私たちを保護するための警告システム、これを活用するときに私たちを利するものであることを理解するのだ。

God Bless You!!


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