2023年5月31日(水)

2023年5月31日(水)


『牢獄のオアシス』

〔5月30日の続き〕

最下階の隠れたところに再建されたチャペルは、ぞっとするような監獄に誕生した美しいオアシスだった。
司祭たちは大理石の床をしつらえ、壁には精妙な作りの美しい突き出し燭台をつけた。

毎週司祭たちが修道院からやって来て礼拝を執り行うとき、囚人たちは独房から出ることを許された。
もちろん礼拝の出席率はきわめて高かった。

私の仲間ロン・ニッケルが、「囚人たちのために祈りますか」とブラザー・ボニファート・ペートルに尋ねた。
司祭は当惑したようだった。

「祈りですか?
祈ってほしいのですか?」

私たちはうなずいた。
考え込んでいるようだったが、司祭は部屋の奥にある演壇の後ろに姿を消した。
やがてイコンを一つ取り出し、持って来た二つの燭台と二つの香鉢を所定の場所に大儀そうに置いて火を灯した。

次に頭の被り物とローブを脱ぎ、黒い両袖に金のカフスを丁寧に飾りつけた。
首に金のストールをだらりとかけ、金の十字架像をつけた。

祈る準備が整った。

ブラザー・ボニファートは祈りの言葉を唱えるのでなく、別のスタンドに立てかけた典礼の本を見ながら歌った。

囚人たちのために祈ってほしいとロンが言った10分後、ブラザー・ボニファートはようやく「アーメン」を言い、私たちは刑務所を出て、外の新鮮な空気を吸い込んだ。

チャペルで行われた手順を見ながら、ロシアの壮大な聖堂の中で感じた、心の中の葛藤を思い出した。
崇敬の念、従順、畏怖、戦慄すべき神秘(mysterium tremendum)正教会にはこうしたミサの性質がしっかりと保たれている。

しかし、神は遠くにいるままで、たくさんの準備や司祭やイコン等の仲介を通して初めて、近づくことができる。

地下の独房の少年たちのことを思った。
「だれかが祈ってください」と求めたら、「忍耐する力が与えられるように」とか、「病気の家族のために祈ってください」と求めたら、ブラザボニファートはやはり同じ儀式を行うのだろうか。

独房の少年たちは、自分たちで神に近づこうとは思わないのだろうか。
イエスがお用いになったような、ふだんの言葉で祈ろうとは思わないのだろうか。

それでも必要があれば、修道士たちはそれに対応していた。
パンをもって、受肉した臨在をもって、最も思いがけないところで行われる礼拝を再び行いながら。

ある朝、私はザゴルスクにおいてロシアで最高かつ最悪のものを見た。
一瞬、その最善と最悪が一つになった。

God Bless You!!


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