2023年3月3日(金)
『バジルの訪問』
1991年にソ連が崩壊したとき、ロシアを訪問するクリスチャンの代表団に加わった。
ロシアの人々がキリスト教に敬意を払う姿勢を崩さなかったので、この国の宗教に対する姿勢がどれほど根本的に変わったかを見過ごしそうになった。
バジルに会って、否応なくその変化を知らされた。
米国のクリスチャンがソ連最高会議やKGBと会談する。
国営ラジオが報じたそのニュースを、バジルは疑わしい思いで聞いていた。
バジルは、ロシアが宗教を容認するなど信じられず、夜行列車で14時間かけて、ルーマニアのモルダビアから私たちに会いに来た。
肩幅の広い、農夫らしく日に焼けた頑丈な体つきをしていた。
微笑みに特徴があった。
上の前歯二本がなく、笑うとその隙間から、奥歯にかぶせた金がかすかに光った。
バジルが口を開くなり、私は飛び上がってしまった。
まるで貨物列車が通るような大声だったのだ。
これほど大きな話し声を聞いたことがなかった。
だが、その理由はすぐにわかった。
1962年、バジルはキリスト教のトラクトを配ったために逮捕され、強制労働収容所に送られた。
納得できなかった。
神にお仕えしたのに、なぜ罰を受けなければならないのか。
ところがある朝、神が新しい機会を与えてくださったことを一瞬にして理解した。
労働収容所の囚人は、毎朝、日の出前に広場に整列し、点呼を受けた。
所長らは囚人に時間厳守を言い渡したが、看守にはそれを求めなかった。
そのため何千人もの囚人が毎朝何もしないで数分間、外に立っていた。
バジルはその時間を利用して大好きな説教をした。
ホテルの一室でこの話をしながら、バジルの声はどんどん大きく速くなり、オペラ歌手のように情熱的に腕を振り回した。
数センテンスごとに通訳のアレックスがバジルの振り回している腕をつかみ、「お願いですから、もう少しゆっくり小さな声で話してください」と言った。
そのたびにバジルは謝り、うつむいてピアニッシモで話しだすが、二秒もするとフォルテッシモになった。
彼の声には音量のコントローラーがついていなかった。
その理由は、労働収容所での、ある早朝の出来事にあった。〔3月4日に続く〕
God Bless You!!
a:17 t:1 y:0