2023年3月12日(日)
『繰り返さないか』
2008年の夏、再び旅の人となり、アウシュヴィッツで一日を過ごした。
大量殺人のスケールに心が萎える場所だ。
三百のバラックがアウシュヴィッツの数千平方メートルもの草原に広がっていたが、収容された人たちはそこに生きるためでなく、死ぬために連れて来られた。
ガスを吸った遺体を処理するため、焼却炉は昼夜を問わず稼働し、一日に一万の遺体が焼かれた。
計五十万人、そのほとんどがユダヤ人だった。
アウシュヴィッツは恐ろしい場所だ。
あまりにも整然として秩序立っているように見える。
あたかも大企業がコンサルタントを雇い、純粋な悪のプログラムを考案させたかのようだ。
9・11が米国に与えたような影響が、4年間毎日繰り返されたと想像してみればいい。
しかもテロリストでなく、既成の政府が市民に向けた仕打ちだったのだ。
オランダ、フランスなど様々な国がバラックをそのまま「借用」し、アウシュヴィッツで殺された市民のことを語り伝えてきた。
もちろんイスラエルもいくつかの展示を行っている。
ツアーガイドはグループの先頭に立ち、「絶滅のテクニック」や「略奪品」などとされる展示物のところへと導く。
あるバラックは、200人用の部屋に800人の人が押し込められた生活状況を描いている。
収容されていた人に使われた拷問器具を展示しているバラックもあれば、意図的に病原菌を注入したり、実験のために焼いたり、はたまた氷水の入ったタンクに投げ込まれた人の、意識の回復過程を調べた医学実験を詳しく伝えているバラックもある。
「略奪品」の建物には、何千もの靴や眼鏡の巨大な山、18メートル幅のガラスの展示ケースいっぱいに詰められた人間の毛髪の山がある。
連合軍は、アウシュヴィッツの倉庫に人間の毛髪二トンが貯蔵されているのを発見した。
何千人もが撃たれた処刑の壁、そして裸のユダヤ人たちがガス室に送られた悪名高い「シャワー室」もある。
アウシュヴィッツには長年草一本育たなかった。
煙突から吐き出された細かい骨のロームが地面を覆っていたからだ。
今は地面に草が今は地面に草が青々と茂り、歩道と煉瓦造りの寮をもつ大学キャンパスのようだ。
「二度と繰り返すまい。」
このスローガンには、アウシュヴィッツの阿鼻叫喚が込められている。
にもかかわらず、私たちの生きている時代に、ルワンダやユーゴスラヴィアやダルフールで、悪の力の程度の違いこそあれ、歴史は繰り返している。
God Bless You!!
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