2023年12月19日(火)
『負け犬』
負け犬という言葉を、特にイエスに関連づけて書くのは気が引ける。
粗野な言葉だ。
おそらく闘犬に由来し、時が経つうちに、負けが予測される者や不正の犠牲者という意味に用いられるようになったのだろう。
しかしイエスの誕生にまつわる話を読むと、この世は富と権力をもつ者に味方していても、神は負け犬に味方していると結論せざるをえない。
マリアはその賛歌の中でこう言った。
「主は……権力のある者を王位から引き降ろし、低い者を高く引き上げられました。
飢えた者を良いもので満ち足らせ、富む者を何も持たせずに追い返されました」。
ラースロー・テケシュというルーマニア人牧師がいる。
彼の受けた不当な扱いに国民は激憤し、共産主義指導者チャウシェスクに対する反乱が勃発した。
テケシュは、赴任した小さな山の教会でクリスマスの説教を準備していたときのことを語っている。
国家警察が反体制派を検挙し、国中で暴動が起きていた。
身の危険を感じたテケシュは、ドアに門をかけ、椅子に座ると、再びルカやマタイの福音書の話を読み始めた。
そのクリスマスに説教する多くの牧師と異なり、説教の中心は、ヘロデが幼い子どもたちを大量虐殺するさまを描いたくだりにすると決めた。
教区民の心にまっすぐ届くのはその箇所だけだった。
圧政、恐怖、暴力等、負け犬にとって日常的な状態を、人々はわが事として受けとめる。
翌日のクリスマスに、チャウシェスク逮捕のニュースが流れた。
教会の鐘が鳴り響き、ルーマニア全土が喜びに沸いた。
もう一人のヘロデ王が失脚したのだ。
テケシュは述懐している。
「クリスマス物語の出来事すべてが、今や新しく輝かしい次元をもつものとなりました。
私たちの人生の現実に根を下ろした歴史の次元です。
……人生の現実を生き抜いた私たちにとって、1989年のクリスマスは、クリスマス物語の朗々と響きわたる豊かな美しい模様を象徴するものとなりました。
そのとき、トランシルバニアの丘の上に時間を超えて太陽と月があるように、神の摂理と邪悪な人間の愚かさがよくわかるように思われました。」
ルーマニア人は40年ぶりに、クリスマスを公の聖日としてお祝いした。
God Bless You!!
a:6 t:1 y:0