2023年12月16日(土)
『良き知らせ』
イエズス会の宣教師マテオ・リッチは16世紀に中国へ渡ったとき、キリストの話を初めて聞く人々のために、宗教画の見本を携えて行った。
中国人は、幼子を抱く処女マリアの絵をすぐに受け入れたが、リッチがキリストの磔刑図を見せながら、神の御子はただ処刑されるために生を受けたと話し始めると、強い嫌悪感と恐怖感を示した。
彼らは処女マリアのほうがずっと好きで、十字架にかけられた神よりマリアを拝みたいと言い張った。
もう一度クリスマスカードの山をめくっていくと、キリスト教国にいる人々も、おおかた同じようなことをしていることに気がついた。
スキャンダルの気配などすっかり取り去った、家庭的で落ち着いた祝日が見て取れる。
何といっても、ベツレヘムで始まったあの物語がカルバリという結末を迎えるとの思いを一掃してくれる。
ルカやマタイによるキリスト誕生の話では、神が実行に移された計画の神秘的な性質を把握していたのはただ一人、あの老シメオンだけだった。
この老人は生まれた赤ん坊がメシアであることを見抜き、必ずや闘いが起こることを直観した。
そして、「この子は、イスラエルの多くの人が倒れたり立ち上がったりするために定められ、また、人々の反対にあうしるしとして……」と言い、剣がマリアの心をも刺し貫くだろうと予言した。
表面上は何も変わっていなかったが、なぜかシメオンは、深いところですべてが変わったことを感じ取っていた。
この世の権力者の土台を覆すために、新しい力がやって来たのだ。
当初、権力者たちはイエスにほとんど脅威を感じていなかった。
イエスが生まれたのは、ローマ帝国の隅々まで希望が漂っていたカエサル・アウグストゥスの時代だ。
初めて「福音」や「良き知らせ」を意味するギリシア語を借用し、その統治が象徴する新しい世界秩序の呼び名に使ったのがアウグストゥスだった。
見識があって安定した体制は永遠に続き、統治体制の問題に最終的な解決が与えられた、と多くの人が信じ
ていた。
一方、アウグストゥスの帝国の片隅でイエスという赤ん坊が誕生したことは、当時の年代記作者たちから見過ごされた。
イエスの伝記作者たちも、ゴスペル(福音)という言葉を借用し、それまでになかった新しい世界秩序を宣言した。
彼らがアウグストゥスに触れたのはたった一度、イエスが確かにベツレヘムで誕生したことを知らせるために、人口調査の日付に軽く触れた時だけだった。
God Bless You!!
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