2023年5月20日(土)

2023年5月20日(土)


『最後の最高の言葉』

もの書きなので、一日中言葉と戯れている。
言葉をもてあそび、響きに耳を傾け、意味を読み取り、自分の考えを言葉に込めようとする。

言葉は時が経つと腐ることが多い。
古くなった肉のように。

英欽定訳聖書の訳者たちは愛の最高のかたちを熟考し、その意味を伝える言葉として「慈善」(Charity)に落ち着いた。

今では「あなたの慈善なんて欲しくない!」と蔑むように抗議されるだろう。

私が繰り返し「恵み」(Grace)に戻ってくるのは、それが腐ったことのない壮大な神学用語であるからかもしれない。

この言葉を私は「最後の最高の言葉」と呼んでいるが、それは、この英語の言葉が使われるとき、本来の意味のもつ栄光を常にいくらかとどめているからだ。

広大な帯水層のように、恵みという言葉が私たちの誇る文明の根底に潜んでいて、良きものは私たち自身の努力からではなく、神の恵みによってもたらされることを思い出させている。

恵みは実に驚くべきものだ。
実際のところ、私たちの最後の最高の言葉である。

この言葉には、一滴の水に太陽のイメージが含まれ得るように、福音の本質が含まれている。

世界は、自分でも気がつかない仕方で恵みを切望している。
賛美歌の「アメイジング・グレイス」が、作曲されてから二百年後に、トップテン・チャートに食い込んでも不思議はない。

精神的な拠りどころを失って漂っているような社会にとって、信仰という錨を下ろすのに、これ以上の場所はない。
しかし、恵みの状態というものは、音楽の装飾音のように、あっという間に過ぎ去ってしまう。

幸福感に満ちた夜、ベルリンの壁が崩れ落ちる。
南アフリカの人々が生まれて初めて投票するために長蛇の列を作る。
イツァーク・ラビンとヤセル・アラファトがローズ・ガーデンで握手をする。

その一瞬、恵みが降りてくる。
それから東ヨーロッパは再建という長期の仕事にむっつりした顔で取りかかり、南アフリカは国政の運営に知恵を絞り、アラファトは弾丸を逃れ、ラビンは銃弾に倒れる。

消滅してゆく星のように、恵みは最後に青白い光を爆発させて散ってゆき、「恵みでないもの」のブラックホールに呑み込まれる。

God Bless You!!


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