2023年3月4日(土)
『二分間の教会』
〔3月3日の続き〕
バジルは毎日、耳を傾けるしかなかった聴衆に説教した。
看守が来るまで五分もなく、たいがい二分ほどだったが、説教の準備に二週間かかることも多かった。
数千人の囚人に聞かせるには絶叫するほかなかった。
大声の出し過ぎで声は枯れ、そのまま元に戻らなかった。
計10年の長きにわたり、何千もの人々に語りかけたので、声を張り上げて、まくしたてるようなしゃべり方が普通になった。
1972年に解放されると、故郷の村の未登録の教会の建築に精力を傾ける。
19年を経た今、反対の声は鳴りを潜め、バジルは最後のセメントブロックを置いて、教会の屋根をふいた。
彼は言った。
「自分がモスクワに来たのは、皆さんがしてくださったことに感謝するためです。
モルダビアから新鮮な果物を運ぶためです。
そして、ラジオ放送で有名なロシア系米国人伝道師アレックス・レオノビッチに、教会の献堂式のスピーチを依頼するためです。」
「長い間、励ましを得られませんでした」とバジルは言った。
今は人前で泣いていたし、声が割れても、その声量は少しも落ちていなかった。
「このレオノビッチ兄弟の言葉を私の心に伝えました。
両手を背中で縛られた私を励ましてくれました。」
そして両手を伸ばしてアレックスの肩をつかむと、ロシア式の接吻をした。
1回、2回、15回。
「15年収容されていたので、15回の接吻です。
アレックスがロシアに戻って来る日を待ちわびていました」と言った。
「そしていま起きているこのような変化が信じられません。」
バジルは話の最後に言った。
「1959年、ロシアを訪れたビリー・グラハムは、バルコニーに姿を見せることはできても、しゃべることは許されませんでした。
あなたがたがここにいること、私たちの国の指導者たちと話ができることを思います。
兄弟姉妹、大胆でありなさい!
私の国では信仰者たちが今このときも皆さんのために祈っています。
皆さんの訪問が、私たちの国が神にたどり着く助けになると信じています。
皆さんに神の祝福がありますように!」
私は突然、恥ずかしさに頬が熱くなった。
信仰をもち、恵まれた暮らしをしている19人のプロフェッショナル。
その私たちが豪華なホテルの部屋に腰を下ろしている。
ロシアの人々は、あれほどの苦しみに耐えてきたのだ。
私たちは、この国に必要な盤石な信仰について、何を知っているというのだろうか。
God Bless You!!
a:14 t:1 y:0