2023年2月24日(金)
『制御不能』
2007年2月の最終週、ニューメキシコ州ロス・アラモスの由緒ある教会で話をした。
その晩、趣味の登山に関連づけて、祈りをテーマに地元の人たちに話をした。
妻とウィルソン山に登頂した日、まだ高木限界という安全な所まで降りないうちに黒雲が近づいてきた。
雷がどんどん迫ってくる。
「どうしよう。」
経験豊富な仲間に尋ねたときには、こんな答えが返ってきた。
「何もできやしないよ。花崗岩は通電する。
お互い100メートルくらい離れていたほうがいい。
それだけ離れていれば、ひとりが雷に打たれても、もうひとりが助けに行けるから。
それから足を揃えてしゃがみ込み、できるだけ小さくなって雷の標的にならないようにするんだ。」
妻と顔を見合わせたが、結局肩をすくめてこう言った。
「ジャネット、ぼくたちは良い人生を歩んできたね。ずっと一緒にいよう。」
私たちはハイキング・ポールを捨て、言われていたとおりにしゃがみ込んだが、隣り合って手を握った。
それから一時間、雨とあられと雪、そのすべてが一度に叩きつけてきた。
その間、周りを走り抜ける稲妻の光と、それに続く雷鳴との間隔を数えながら過ごした。
合同教会に集まった人々に私は話した。
「私は人生の大切な勉強をしました。
自分には何もできないのです。
私はフリーランスの作家として、人生をそれなりにコントロールしてきました。
そうせざるをえないわけです。
やるべきことを教えてくれる上司がいないので、自分で自分の人生を組み立てるしかないのです。
そしてほとんどの時間、自分の人生をコントロールできていると思いながら生きています。
ウィルソン山の頂上で学んだのは、それが幻想にすぎないということでした。」
「この登山での学びは、実際どんなときにも適用できます」と言葉を続けた。
「たとえ自分をコントロールしていると思っていても、それは違います。
話を終える前に、皆さんの目の前で心臓発作を起こして死んでしまうかもしれません。」
何人かがやや不安げな笑い声をたてた。
「明日、車でデンバーに帰る途中で事故に遭うこともあり得ます。
ウィルソン山で雷に打たれるより、その確率のほうがはるかに高いでしょう。」
もっと大きな笑い声が聞こえた。
この言葉は薄気味悪いほど予言的なものだった。
〔2月25日へ続く〕
God Bless You!!
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