2023年1月28日(土)
『名もなき人々を心にかけること』
待ち合わせの部屋に入って来たのは、白髪交じりの痩せた男性だった。
アルマジロの解剖をしていたので白衣に血がついていて、「すみません。人間以外で唯一、ハンセン病のバチルス菌をもつ種なんです」と言った。
着ている服は時代遅れで、ルイジアナ病院の敷地の一角にある貸しバンガローに住み、安いおんぼろ車に乗っていた。
ポール・ブランド博士は心底、成功と名声に心を動かされず、そうしたものが馴染まない宣教師であった。
その最初の訪問は一週間に及んだ。
私は、潰瘍を生じた患者の手足を検査するブランド博士の傍らに座り、また研究室へも足を運んだ。
夜はバンガローで、ブランド博士や著名な眼科学者であるお連れ合いのマーガレットと一緒にカレーを食べた。
食事を終えて、博士がオットマンに裸足を載せると、私はテープレコーダーのスイッチを入れ、ハンセン病学や神学から世界の飢餓や土壌保全まで、幅広い話題に及んだ議論を録音した。
私の持ち出すどんな話題についても、博士はすでにかなり深く考えていた。
シェイクスピアを引用し、ギリシア語、ヘブル語、ラテン語の由来を論じた。
休憩時間になると、熟したイチジクの見分け方(蝶々が何度かとまって吟味した後、気に入った完熟イチジクに飛んで行く)や、アフリカのハタオリドリという小鳥が、足一本と嘴だけで巣をこしらえる様子を話してくれた。
インドの患者たち、博士が惜しみなく医療を施そうとした「名もなき人々」の思い出話が特に印象に残った。
その先駆的な仕事を始めたとき、博士は1500万のハンセン病患者のために働く、世界でただ一人の整形外科医だった。
博士とマーガレット夫人は、出会った患者たちに数十余りの外科処置を施し、腱の革新的な移植によって、硬直していた手を動かせるようにしたり、足を再建したり、失明を防いだり、瞼を移植したり、新しい鼻を作つたりしていた。
博士は、患者たちの家族の歴史、この病を発症したときに経験した人々の拒絶、医師と患者が共に経験する試行錯誤の処置について語った。
いつも瞳を潤ませ、患者たちの苦しみを思い出して涙をぬぐいながら話してくれた。
博士にとって、地球上で最も無視されているこの人たちは、名もなき人々ではなく、神のかたちに造られた人々であり、博士はそのイメージを尊重すべく生涯をかけたのである。
God Bless You!!
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